DAOの基礎知識

DAOの基礎知識-3 -どの国に設立?-

DAO設立に適した国とは?

「どの国に設立?」という見出しを見て不思議に思ったかもしれません。
DAOの本質の一つが株式のように仮想通貨を発行しステークホルダーみんなで共有し、その値上がりをインセンティブにすることです。
しかし、日本ではこの仮想通貨の発行や値上がりに対して規制や税金が高いく、DAOの設立になじまないのが実情です。
このことを理解した上で、どこの国で設立するのが良いのかを検討します。
最初に新規DAO設立の参考とするために世界的な有力DAOの状況を考えます。
※有力DAOについては私の過去の調査からの推測で、DAOやDeFiにヒアリングしたものではありません。

有力DAOは自らの組織をどの国に設立しているのか? 納税しているのか?

有力DAOの多くは無届で法人格を持たない組織として設立されています。
そのため多くの有力なDAOは国の法律にも納税にも対応していないと推測されます。
ちなみに、ビットコインやイーサリウムは最も成功しているDAOですが、どこの国にも属していません。
同様にUniswapやSushiswapなどのDeFiも、MakerDAOやAragonDAOなどの有名DAOも同様にどこの国にも属していません。
これは、DAOがサイバースペースのブロックチェーン上にしか存在せず、世界中のどこのサーバーにあるとも定義できない、つまりどこの国に存在するかを特定できず、さらに法人格ももたない存在だからです。
このことは、DAOは本来どこの国家からも規制も徴税も受けないことを意味します。
これだけだと良い事のようですが、逆に言うと法律に守られていないことになります。
(例えば、DeFiが資産をハッキングされてもどこの国家も犯人を捕まえてくれない。対象のDeFiが対応しない限りは誰も補償してくれません。全てが自己責任です。)
これが有力なDAOの現実です。

有力なDAOはどの国にも存在しないし、納税もしていない。

※有力DAOについての補足
本文で、有力DAOはどこの国にも属さないと記載しましたが、多くの有力DAOは運営母体となる組織・会社があることが一般的です。
その組織・団体はいずれかの国に存在し、法規制・納税に準じています。
例) イーサリウム(イーサリウム財団)、uniswap(uniswap labo) など

本当にDAOは法律にも税金にも規制されないのか?

これからのDAOは国に規制されるようになるという考え方が広まっています。
DAO自体は単なるコンピュータープログラムなのでそこに責任追及はできないとの見解を米国のSECが示唆(後述)したとのことですが、その代わりに実質的支配者へ規制や責任追及ができると考えられているからです。
例えば、設立者であったり、実質的な運営責任者・利益受益者であったりに対し、法律の順守や納税を課すことができるという考え方です。

参考 米SECがUniswapの開発企業を調査、WSJが報道
https://hedge.guide/news/sec-investigates-uniswap-labs-bc202109.html
※SECによるとUniswapやCurveはそれ自体はブロックチェーンによって稼働するプロトコルであり、規制の対象にはならない。
しかし、実質的な開発企業は規制することができるとの考えからUniswap Laboを調査した。。
SECはプロジェクトが相応に分散していると判断されるビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は規制対象からはずれるが、それ以外は規制対象になる可能性があるとの考えを示している。
「米国SECのUniswap調査=SECは実体的支配者へ追及が可能」という見解から、実体的支配者が日本でDAOを設立すると日本の規制を受ける可能性があることを示唆している。
日本ではDAOを取り締まる規制も税金もないが、実質的支配者や受益者がその責を負う可能性がある。

DAO自体には法規制も納税義務もないが、実質的支配者の設立者が規制・納税の義務を負う可能性が高い。

現在、日本の起業家がDAOを海外で設立する理由

総論としてDAOの実質的支配者が法規制や納税の義務を負う可能性が高いため、そのリスクを回避するために日本の起業家は海外でDAOを設立することとが多いようです。
それではそのリスクを深堀り検討することで、海外のどこで設立するべきかを検討する材料にしたいと思います。

理由-1 無限責任を追及される恐れがある

仮にDAOがサイバー空間上で国に規制されないとしても、実体的支配者である起業家が各種責任追及される恐れがあります。
例)
〇預かり資産がハッキングにより盗難された。
〇DAOに欠陥があり、その補修を求められた場合。
このような場合に、実体的支配者に無限保障を求められる可能性があり、リスクがとても大きいと考えられます。

理由-2 仮想通貨規制の問題

日本では金融庁の規制により、仮想通貨の販売には仮想通貨交換事業者の免許が必要です。
スタートアップ企業にとってこのハードルはかなり大きいです。
※仮想通貨交換事業者の免許
一般的に、コインチェックやビットフライヤーなどの会社が取得している免許と同じものです。

理由-3 税制の問題

含み益にも課税(発行体・法人投資家双方)される税法上の問題。
仮想通貨発行体であるDAO自身も投資家も決算時には含み益に課税されます。
※同様に仮想通貨交換時でも含み益があれば課税される。
そのため、発行体であるDAOも投資家も成長すればするほど納税額が増え、実質赤字になってしまいます。

例) DAO-Aが仮想通貨(クリプトA)を100枚発行したケース
最初の投資家Bへの発行価格  1円/クリプトA ×10枚
2番目の投資家Cへの発行価格   10円/クリプトA ×10枚
とした場合、DAO-Aの実質的支配者の会社と投資家Bに対して含み益9円が発生します。
この場合のそれぞれの含み益は
DAO-Aの実質的支配者の含み益=含み益(10円-1円)×残存保有枚数(100枚-20枚)=800円
この場合の税負担は300円近くなります。
これは実際に投資を受けた金額より大きい金額となり、資金ショートしてしまいます。
投資家Bの含み益=含み益(10円-1円)×残存保有枚数(10枚)=90円
この場合の税負担も約40円近くとなり、こちらも税金で赤字となります。
例からわかるように、仮想通貨が資本金や株式と同様の役割を果たすDAOでは含み益に税金がかかることは致命的な問題です。

DAOの設立はどのようなプロセスで行うべきか。

実質的支配者の追及要件から起業家を守るためにも、下記のプロセスで設立することが望ましいとされています。
DAOを設立する主体となる法人の設立→その法人がDAOを設立したとするプロセスの明文化が大切。
これをおこなうことで、起業家の責任はかなり回避できます。

どの国(地域・特区)に設立するがいいのか。

現在わかっている下記の必要条件の中から選定するのがいいと思われます。
設立しようとするDAOや起業家・投資家の周辺事情から選定するのが望ましいと考えます。

〇法律的側面(下記が可能なこと)
DAO組織の認可・登記
仮想通貨の発行の許可

〇税制面(下記がないこと)
含み益への課税
仮想通貨同士での交換時での課税
パススルー課税(任意団体などが収益を上げた時に実質的受益者へ課税すること)
利確時の課税

世界各国のDAO規制及び仮想通貨の税法比較(現在検証中)
https://bit.ly/3w8ACir
※現在調査中・実際には各自調査が必要です。

このれらの条件が整った国・地域での設立がよいと考えられる。
ちなみに、
有名な仮想通貨関連組織は下記に設立されているようです。
イーサリウム財団 スイス
バイナンス    マルタ共和国(DAOではないですが、世界最大の仮想通貨交換所)
Aster Network  シンガポール(日本の起業家が設立・将来DAO化)
ENS(Ethereum Name Service) ケイマン諸島

※詳細は各自検証してください。

参考 ENSのDAO設立流れについての考察NOTE

有力DAOのENS(イーサリウムネームサービス)が2021年にDAO化した時の経緯・考え方をまとめた原稿があります。
こちらの原稿も参考にしてください。
Legal Structure for DAOs (ENSがDAO化する時の経緯など)

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